Private Seminarでの質問: 「事業会社とバイアウトファンドのPMIの共通点・相違点」

先日のPrivate Seminarの内容についての投稿です。
前回の投稿はこちらです。よろしければ、あわせてご覧ください。
investment-hub.jp/総合商社グループ向けのprivate-seminar「教科書では学べな/↗
Seminarに際して「事業会社とバイアウトファンドのPMIの共通点・相違点」という表題の観点での事前質問があり、珍しい比較の観点と思いながら、友人・諸先輩方にも意見を伺いながら、整理してみました。
総合商社では、ファンドと事業会社の両方の性質を取るため、このようなご質問になった様子。Seminarでは、こちらからPick-upする形でお話をさせていただきました。
勿論PMIは、あくまで案件ごとに異なるので一概には言えないですが、事業の目的や性質によって、PMIのやり方も大きく変化する事例として参考になれば幸いです。
【PMIの共通点】
- チェンジマネジメントやガバナンスの設計・運用をすること(取締役メンバーの選定、取締役会運営方法、子会社側の投資意思決定の権限範囲など)。どこまでを親会社が決定し、どこから対象会社の権限範囲なのかという決め事 等。
- 月次レベルで、予算設定と財務レポーティングやKPI設定をして経営管理をするところも共通。
- 買収後はすぐに現状把握を行い、中から見た事業の実態はできるだけ早く把握する。その上で、達成すべきゴールを対象会社のメンバーとすり合わせ。対象会社で行うべき事業や数値計画を自分事として実行してもらうように落とし込む 等。
【PMIの相違点】
① Integrationの観点
- ファンド:そもそもPMIの“I”(=Integration)という統合の概念がない。あくまで単体の企業価値の最大化が焦点となる。
- 事業会社:グループ化におけるIntegrationは必須。管理面では、連結財務諸表の作成やシステム導入、人事・コンプラ等のルールの導入等を行う(特に、上場企業による非上場会社の買収の場合は急ぐ必要あり)。
このような管理・コンプラ系の手続き面の導入を遅滞なく進める必要があるが、特に買い手側の担当者の性格によっては、上から目線での指示となって対象会社の中で不満が噴出したりすることも。
② 事業面のPMI、設定するゴールの違い
- ファンド:単体の価値を高め、Exit金額を最大化することが目的。(シンプル)
- 事業会社:買収において想定したグループ目的や、買収の目的に向けてPMIを実行していくことになる。管理会計の統合・管理部門の削減・購買の統合・営業や製品の導入 等。事業面のPMIについて、買収の目的に沿った実行を行う。
③ リソースの有無
- ファンド:(原則は)対象会社のリソースを最大限活用する前提。お金も人員も現行メンバーで実施していくため、メンバーに辞められるのは困る。買収後の対象会社へのアプローチは慎重かつ丁寧に行う必要あり。
- 事業会社(国内の同業者買収):同業買収の場合は、買収した事業に詳しいので、事業知見・人員・投入資金・PMIのTODOのイメージもあり、最初から積極的に関わる傾向があり。買収目的の遂行に向けて直ぐにPMIを推進していく。
- 事業会社(非同業の買収、海外企業の買収):事業知見や文化の違い等の壁もあり、どう進めてよいのかわからないケースもあり、対象会社のメンバーの事業知見やマネジメントに頼る必要があるので慎重になる。また海外企業の買収で起こりがちな事象は、担当者を派遣して日本企業のやり方を押し付けしまう、または、給料(特に経営陣)を親会社の日本企業の基準で考えてしまうことで役職員が流出するケースが頻出。特に初めての海外買収案件で起こりがち。
また、M&Aに慣れていない買い手の場合、事業の観点でやるべき事項が整理されておらず、買収したあとにPMIを何もしない・放置してしまうというケースがよく起きている。
④ 資金制限の観点
- ファンド: LBOローンを引いているので、大きな事業改革や新規事業のような実行リスクを伴うプランの実施は難しい。組織改革や新規事業を前提とする案件は投資対象にしづらい。まずは事業の効率化・現事業の成長を前提とした計画となる傾向。
- 事業会社: LBOローンのような資金の制限が伴う案件をあまり行わないので上記のような資金的な制限・CFの安定性にそこまで拘束されることは少ない。
⑤ 組織のマネジメント
- ファンド:基本的には対象会社がやってきたやり方を尊重するスタイルをとる。コーチング的な関与の仕方。(そういったアプローチが投資運営として合理的)。大きな組織改革や営業改革のような人が離れるリスクのあることは実行しづらい。
- 事業会社:(案件担当者の性格やPMIの慣れや、事業内容にもよるが)対象会社のやり方を尊重するケースもあれば、グループの考え方に早期に統一を求めるケースもあり(事業内容の類似性にもよる)。
担当者の性格で、グループの子会社になったのだからという態度で心遣いなく進めてしまうと、特に非同業者や海外企業の買収のケースでは人心が離反して失敗しまうケースも。
ただし国内の同業者を買収する場合、事業内容をよく理解していたり、文化も近いケースが多いため、PMIを遅滞なく進めてグループ化・統合化を進めてもうまく行きやすい。結局事業上の成果がでてくると、対象会社のメンバーも親会社の進め方に従うようになる。
⑥ 経営陣トップの人事・交代
- ファンド: 経営陣トップの交代は、戦略的オプションとしての重要な打ち手。必要と判断する場合は行使する。
- 事業会社:経営陣トップの交代は、Reputationの観点で行使しづらい面があるとのこと。
⑦ カルチャーについて
- ファンド:対象会社で新しい従業員を採用していくことが多く、また、財務的な目線での議論がされがちなためか、相対的にカルチャーの醸成や組織の一体感というものが希薄となる傾向あり。
- 事業会社:買い手のグループ会社で共有されている理念に統合していくことが第一に考えられること。
⑧ 長期目線での投資・人材教育の考え方
- ファンド:まずは目先の資金的な余裕ができるまでは、EBITDAやFCFの創出が大事。その後に長期目線での新規事業・成長事業を育てることは勿論行うが、その視点は、Exit Valueの最大化につなげるという観点。(DCFの5年目のFCFが増えて、Terminal Valueの計算が増えるようにというイメージ)
- 事業会社:経営理念やVisionの浸透のために必要な人材投資等(例えば、経営合宿、社員集会やイベント等)は随時実施する。将来のExitというものが存在しないので、組織としてのカルチャーや価値観の統一という観点での人材投資は積極的に行う。
(以上)
買収やPMIは、案件ごとに変わるので色々な考え方があると思いますが、頭の体操ということでご参考になれば幸いです。